東京高等裁判所 昭和28年(う)812号 判決 1953年6月15日
控訴人 被告人 砂塚大一郎
弁護人 伊藤博夫
検察官 八木新治
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人伊藤博夫作成の控訴趣意書の通りであるからこれを引用しこれに対し当裁判所は次のように判断する。
論旨第二点について。
しかし原判決挙示の証拠によれば被告人が佐藤伝一郎より二回に受領した合計金一万一千円は候補者大野市郎のために選挙運動に対する報酬として供与を受けいずれも被告人の自由処分に委せられたものであることが明白であるから、該金員は右供与を受けた時に被告人の利益に帰したものとして公職選挙法第二百二十四条により没収もしくはその価格追徴を免れないものと解すべく、而してその後被告人が矢代大八郎及び小山藤蔵に供与した合計金一千円が右佐藤伝一郎から手交せられた金円の一部を以て利用せられたものであるとしても、該金円の供与が右佐藤伝一郎の指示により同人が被告人に供与した前記一万一千円の中より分与すべきものとなつていたというような特別の事情があつた場合ならば格別、右は専ら被告人の任意の意思に基く支出である以上、右金円の供与は前記佐藤伝一郎から被告人が供与を受けた事犯とは別個の新たな犯行であり、従つてこれによつて収受せられた利益も亦被告人が右佐藤伝一郎から受けた利益とは別個の新たに生じたものと謂うべきであるから、原審判決が本件追徴金額の算定に当り佐藤伝一郎から収受した利益の中から所論の一千円を控除しなかつたからというて必ずしも違法の措置と断ずべきではない。論旨は採用し難い。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 小中公毅 判事 渡辺辰吉 判事 河原徳治)
控訴趣旨
第二点原判決は判決に影響ある法律の適用の誤りありと思料せられる。
原判決は其主文に於て被告人より金一万一千円を追徴する旨を言渡している。しかしながら公職選挙法第二百二十四条によつて追徴の対照となるべき利益とはその利益が現存又は残存せるものを指称すると解するを相当と信ぜられる。即同条第二百二十一条乃至第二百二十三条に違反して収受した後更にこれを一部又は全部右同条に違反して他人に供与した場合に於ては最初収受した総額が没収又は追徴の対象となるものではなく収受した額と第三者に供与した額との差額が同第二百二十四条に所謂利益と解釈すべきものと信ぜられる。
然らば本件の場合に於て被告人は判示第一に於て計金壱万壱千円を収受しているけれども判示第二に於て右金壱万壱千円の内計金壱千円を他人に供与しているのであるから追徴の対象となるべき金額は差引金壱万円とならねばならぬ筋合である。
而して判示第二の金円が判示第一の金円中から支出せられた事は本件記録中被告人の供述中これに相応する記載ある事実に徴して明認出来る。以上の事実は判決に影響ある事実につき原判決を破棄せられたいのであります。
(その他の控訴趣意は省略する。)